会計士・税理士事務所の事業承継のすべて|M&Aや親族承継の方法、リスク、成功事例を紹介

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会計士・税理士事務所の事業承継は、経営者の高齢化や後継者不足などにより、近年ますます重要になっています。事務所の存続、顧客との信頼関係、従業員の雇用を守るためにも、適切な事業承継が必要です。この記事では、会計士・税理士事務所の事業承継のすべてを解説します。親族内承継、親族外承継、M&Aによる事業承継の方法、それぞれのメリット・デメリット、注意点、成功事例などを詳しく解説します。

会計士・税理士事務所の事業承継とは?

会計士・税理士事務所の事業承継とは、事務所の経営権や資産、顧客などを、次の世代に引き継ぐことを指します。事業承継は、事務所の存続、顧客との信頼関係、従業員の雇用を守る上で重要な役割を果たします。

事業承継を行う主な理由

  • 経営者の高齢化
  • 後継者不足
  • 事業の拡大
  • 顧客の事業承継

事業承継の方法

会計士・税理士事務所の事業承継には、主に以下の3つの方法があります。

  1. 親族内承継
    • 経営者の親族が事業を引き継ぐ方法
    • メリット:事務所の事情や顧客をよく理解している、手続きが比較的スムーズ
    • デメリット:後継者が税理士資格を持っていない場合がある、親族間のトラブルが発生する可能性がある
  2. 親族外承継
    • 経営者の親族以外の人が事業を引き継ぐ方法
    • メリット:後継者を探す範囲が広がる、事務所の活性化につながる可能性がある
    • デメリット:後継者探しに時間がかかる、顧客との信頼関係を築き直す必要がある
  3. M&Aによる事業承継
    • 他の企業や事務所に事業を売却する方法
    • メリット:事務所の価値を最大限に引き出せる可能性がある、事業承継に時間がかからない
    • デメリット:売却価格が低い場合がある、事務所の経営方針が大きく変わる可能性がある

各事業承継方法の詳細

1. 親族内承継

親族内承継は、経営者の親族が事業を引き継ぐ方法です。事務所の事情や顧客をよく理解しているため、手続きが比較的スムーズに進められます。しかし、後継者が税理士資格を持っていない場合や、親族間のトラブルが発生する可能性があるなどのデメリットもあります。

親族内承継の手順

  1. 後継者の選定: 経営者はまず、事業を引き継ぐ後継者を決めなければなりません。後継者が税理士資格を持っているか、事務所の経営を担う能力があるかなどを慎重に判断する必要があります。
  2. 事業承継計画の策定: 後継者を選定したら、事業承継計画を策定します。事業承継計画には、承継時期、承継方法、資産の評価、税金対策、後継者の育成など、さまざまな項目が含まれます。
  3. 資産の承継: 事業承継計画に基づき、事務所の資産を後継者に承継します。資産には、土地、建物、設備、顧客リスト、知的財産など、さまざまなものが含まれます。
  4. 負債の承継: 事務所の負債も後継者に承継されます。負債には、借入金、未払い金、未納税金など、さまざまなものが含まれます。
  5. 税金対策: 事業承継には、贈与税や相続税などの税金が発生します。税金対策をしっかり行い、税負担を軽減する必要があります。
  6. 後継者の育成: 後継者は、事務所の経営や業務をスムーズに引き継ぐために、必要な知識やスキルを身につける必要があります。経営者は、後継者を育成するための計画を立て、必要な教育や指導を行わなければなりません。

親族内承継のメリット

  • 事務所の事情や顧客をよく理解している: 親族は、事務所の事情や顧客をよく理解しているため、事業承継がスムーズに行えます。
  • 手続きが比較的スムーズ: 親族間での承継は、非親族間での承継に比べて、手続きが比較的スムーズに進められます。
  • 顧客との信頼関係を維持しやすい: 親族が事業を引き継ぐことで、顧客との信頼関係が維持されやすくなります。

親族内承継のデメリット

  • 後継者が税理士資格を持っていない場合がある: 親族が税理士資格を持っていない場合は、事業承継が困難になる可能性があります。
  • 親族間のトラブルが発生する可能性がある: 親族間での事業承継は、相続問題など、さまざまなトラブルが発生する可能性があります。
  • 後継者の能力不足: 親族が事業を引き継いだ後、経営能力不足や業務遂行能力不足によって、事務所の業績が悪化する可能性があります。

2. 親族外承継

親族外承継は、経営者の親族以外の人が事業を引き継ぐ方法です。後継者を探す範囲が広がるため、能力の高い後継者を見つける可能性があります。また、事務所の活性化につながる可能性もあります。しかし、後継者探しに時間がかかる、顧客との信頼関係を築き直す必要があるなどのデメリットもあります。

親族外承継の手順

  1. 後継者候補の選定: 親族外承継の場合、後継者候補の選定は、親族内承継よりも難しく、時間がかかります。事務所の経営理念や文化に合う人材を見つける必要があります。
  2. 事業承継計画の策定: 後継者候補が決まったら、事業承継計画を策定します。親族内承継と同様、承継時期、承継方法、資産の評価、税金対策、後継者の育成などを具体的に計画します。
  3. 資産・負債の承継: 事務所の資産や負債を後継者に承継します。
  4. 顧客との信頼関係構築: 後継者は、顧客との信頼関係を築き直す必要があります。そのため、顧客とのコミュニケーションを密にすることが重要になります。
  5. 税金対策: 親族外承継の場合、贈与税や相続税の対策だけでなく、事業譲渡による所得税の対策も必要になります。
  6. 後継者の育成: 親族外承継では、後継者の育成がより重要になります。後継者は、事務所の業務を習得し、顧客との信頼関係を築くための指導を受ける必要があります。

親族外承継のメリット

  • 後継者を探す範囲が広がる: 親族以外の人材を探せるため、能力の高い後継者を見つける可能性が高まります。
  • 事務所の活性化につながる可能性がある: 新しい人材が参入することで、事務所の活性化につながる可能性があります。
  • 経営理念や文化に合う後継者を選べる: 親族にこだわらず、事務所の経営理念や文化に合う人材を選べるため、事業承継後の安定経営につながりやすいです。

親族外承継のデメリット

  • 後継者探しに時間がかかる: 能力が高く、事務所に合う後継者を見つけるには、時間がかかる可能性があります。
  • 顧客との信頼関係を築き直す必要がある: 新しい後継者が、顧客との信頼関係を築き直すには、時間と努力が必要です。
  • 事務所の経営方針が大きく変わる可能性がある: 新しい後継者が、独自の経営方針を採用することで、事務所の経営方針が大きく変わる可能性があります。

3. M&Aによる事業承継

M&Aによる事業承継は、他の企業や事務所に事業を売却する方法です。事務所の価値を最大限に引き出せる可能性があり、事業承継に時間がかかりません。しかし、売却価格が低い場合や、事務所の経営方針が大きく変わる可能性があるなどのデメリットもあります。

M&Aによる事業承継の手順

  1. M&A仲介会社の選定: M&Aによる事業承継を行う場合は、M&A仲介会社の選定が重要です。経験豊富な仲介会社を選べば、スムーズに事業承継を進められます。
  2. 事業承継計画の策定: M&Aによる事業承継を行う場合も、事業承継計画を策定する必要があります。承継時期、売却価格、顧客の引き継ぎ、従業員の雇用など、具体的な計画を立てます。
  3. デューデリジェンス: 譲渡側と譲受側は、お互いの企業価値を調査するデューデリジェンスを実施します。デューデリジェンスによって、売却価格や承継条件などが決定されます。
  4. 最終契約書の締結: 譲渡側と譲受側は、最終契約書を締結します。最終契約書には、売却価格、承継条件、支払い方法、債務の引き継ぎなど、具体的な内容が記載されます。
  5. クロージング: 最終契約書が締結されると、クロージングが行われます。クロージングとは、M&Aが完了することを意味し、株式の移転や資金の決済などが行われます。

M&Aによる事業承継のメリット

  • 事務所の価値を最大限に引き出せる可能性がある: M&Aは、事務所の価値を最大限に引き出せる可能性があります。
  • 事業承継に時間がかからない: 親族内承継や親族外承継に比べて、M&Aによる事業承継は、比較的短期間で完了します。
  • 売却利益を得られる: 事務所を売却することで、売却利益を得られます。
  • 従業員の雇用が安定する: 譲受企業が従業員を引き継ぐことで、従業員の雇用が安定します。

M&Aによる事業承継のデメリット

  • 売却価格が低い場合がある: 譲渡する事務所の価値が低い場合、売却価格も低くなる可能性があります。
  • 事務所の経営方針が大きく変わる可能性がある: 譲受企業の経営方針が異なる場合、事務所の経営方針が大きく変わる可能性があります。
  • 顧客との信頼関係が変化する可能性がある: 譲受企業が顧客との信頼関係を築き直す必要があるため、顧客との信頼関係が変化する可能性があります。
  • 手続きが複雑で時間がかかる: M&Aは、親族内承継や親族外承継に比べて、手続きが複雑で時間がかかります。

会計士・税理士事務所の事業承継における注意点

会計士・税理士事務所の事業承継は、スムーズに行けば事務所の存続や顧客との信頼関係維持、従業員の雇用確保など、多くのメリットがあります。しかし、事前に注意点などを理解していないと、トラブルに発展する可能性もゼロではありません。ここでは、事業承継における注意点について解説します。

1. 顧客との信頼関係を維持する

顧客との信頼関係は、会計士・税理士事務所の事業承継において最も重要な要素の一つです。顧客は、事務所の経営者が変わっても、これまで通りのサービスを受けたいと考えています。そのため、事業承継を行う際には、顧客に十分な説明を行い、不安を解消する必要があります。顧客との信頼関係を維持するための具体的な対策としては、以下のものが挙げられます。

  • 顧客への説明会を開催する: 事業承継の内容や今後のサービスについて、顧客に説明会を開催します。
  • 承継後のサービスを継続する: 顧客がこれまでと同じサービスを受けられるように、承継後もサービスを継続します。
  • 顧客とのコミュニケーションを密にする: 顧客とのコミュニケーションを密にすることで、顧客の不安を解消し、信頼関係を築き直します。
  • 顧客からの質問に丁寧に答える: 顧客からの質問には、丁寧に答えることで、顧客の不安を解消します。

2. 従業員の雇用を維持する

従業員の雇用維持も、会計士・税理士事務所の事業承継において重要な要素です。従業員は、事務所の経営者が変わっても、安心して働き続けたいと考えています。そのため、事業承継を行う際には、従業員に十分な説明を行い、不安を解消する必要があります。従業員の雇用を維持するための具体的な対策としては、以下のものが挙げられます。

  • 従業員への説明会を開催する: 事業承継の内容や今後の雇用について、従業員に説明会を開催します。
  • 雇用条件を維持する: 従業員の雇用条件は、事業承継後も可能な限り維持します。
  • 従業員とのコミュニケーションを密にする: 従業員とのコミュニケーションを密にすることで、従業員の不安を解消し、モチベーションを維持します。
  • 従業員の意見を聞く: 従業員の意見を聞くことで、事業承継後の課題や改善点などを把握します。

3. 税金対策をしっかり行う

事業承継には、贈与税や相続税、事業譲渡所得税などの税金が発生します。税金対策をしっかり行い、税負担を軽減する必要があります。税金対策には、以下のものが挙げられます。

  • 事業承継税制の活用: 事業承継税制は、事業承継に伴う税負担を軽減するための制度です。事業承継税制の活用には、さまざまな条件がありますので、事前に専門家と相談する必要があります。
  • 資産の評価: 事務所の資産を適正に評価することで、税負担を軽減することができます。
  • 相続対策: 事業承継と同時に、相続対策も検討する必要があります。

4. 専門家のサポートを受ける

会計士・税理士事務所の事業承継は、複雑で専門的な知識や経験が必要です。そのため、事業承継を行う際には、専門家のサポートを受けることをおすすめします。専門家には、以下のものが挙げられます。

  • 税理士: 税金対策や相続対策などのサポート
  • 弁護士: 事業承継契約書の作成や交渉などのサポート
  • M&A仲介会社: M&Aによる事業承継のサポート

専門家のサポートを受けることで、事業承継をスムーズに進め、トラブルを回避することができます。

会計士・税理士事務所の事業承継の成功事例

ここでは、会計士・税理士事務所の事業承継の成功事例を2つ紹介します。

成功事例1:親族内承継

  • 譲渡元:70代の税理士
  • 譲渡先:税理士事務所の従業員(税理士資格取得済み)
  • 承継方法:親族内承継

この事例では、70代の税理士が、長年勤めていた従業員に事務所を譲渡しました。従業員は税理士資格を取得しており、事務所の業務にも精通していました。そのため、顧客からの信頼も高く、事業承継後もスムーズに業務が引き継がれました。

成功のポイント:

  • 後継者が事務所の業務に精通していた
  • 顧客からの信頼が厚かった
  • 譲渡元が後継者の育成に力を入れていた

成功事例2:M&Aによる事業承継

  • 譲渡元:中小規模の税理士事務所
  • 譲渡先:大手税理士法人
  • 承継方法:M&A

この事例では、中小規模の税理士事務所が、経営者の高齢化と後継者不足により、大手税理士法人に事業を譲渡しました。譲渡後、顧客は引き続き、大手税理士法人のサービスを受けることができます。また、従業員も大手税理士法人へ転職することができ、雇用が安定しました。

成功のポイント:

  • 譲渡先が顧客との信頼関係を維持できる企業だった
  • 従業員の雇用が安定した
  • 譲渡元が適切なM&A仲介会社を選んだ

まとめ

会計士・税理士事務所の事業承継は、事務所の存続や顧客との信頼関係、従業員の雇用など、さまざまな要素が複雑に絡み合う重要な課題です。親族内承継、親族外承継、M&Aなど、それぞれの方法にはメリット・デメリットがあります。事業承継を成功させるためには、事務所の状況や経営者の意向、顧客や従業員の立場などを考慮して、最適な方法を選択することが重要です。

事業承継は、事前に準備しておけば、スムーズに進む可能性が高まります。専門家のサポートを受けることも有効です。この記事が、会計士・税理士事務所の事業承継を検討されている方の参考になれば幸いです。

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