ダンスは、身体表現を通して感情やストーリーを伝える芸術です。観客は、その動きや音楽、空間、そしてダンサーの表現力を通して様々なメッセージを受け取ります。しかし、ただ見て楽しむだけでなく、ダンスを批評的に鑑賞することで、より深い理解と感動を得ることができます。
ダンスの批評は、作品を客観的に分析し、その良さや改善点を見つけることで、作品に対する理解を深め、自分自身の鑑賞力を高めるためのプロセスです。また、ダンサー自身にとっても、客観的な視点を得ることで、自身の表現力を向上させるための貴重な機会となります。
目次
ダンス批評の5つの段階
ダンスを批評する際には、以下の5つの段階を踏むことで、作品全体をより深く理解することができます。
- 観察する: 見ようとする姿勢を持つ
- 記述する: 見聞きしたことを言葉に表す
- 分析する: 細かいところ(動き、空間の使い方、何か道具を持っていたかなど)まで見て、何が起こっているのか見る
- 解釈する: ダンス作品を自分なりに、説明できるように意味づけする
- 批評する: そのダンスの印象に残った部分とその理由を言う
例えば、ミュージカル「雨に唄えば」の主人公が傘をさして踊っている部分を例に、それぞれの段階で鑑賞して批評すると次のようになります。
- 観察する: 動画リンク
- 記述する: 道で、男の人が、雨の中を傘をさして、歌い踊っている
- 分析する: その男の人は、片手に傘をもって、足で、軽やかにステップを踏みながら歩道に上がったり降りたりして踊っている。時には、早いステップを踏んだりしている。踊るのに夢中で、水たまりの水を両足でバシャバシャ弾いていたら、警察に注意される。
- 解釈する: 彼はとても、幸せそうで、雨が降っていてもお構い無し。雨に濡れるのを楽しんでいるよう。
- 批評する: 後半の方で、彼が、水たまりの水を両足でバッシャバシャ弾くところがいい。リズミカルに曲に乗ってはしゃいでいる様子がダンスの動きに表されているから。
ダンス鑑賞のポイント
ダンス作品を分析的にみる鑑賞の仕方は、振付、芸術面、構成面、制作面、出演ダンサーの身体と感情表現の5つのポイントを意識することで、より深みのある鑑賞体験を得ることができます。
1. 振付
振付の動きを鑑賞するときは、ダンスの4つの構成要素(アクション、ダイナミック、空間、他者との関係)に着目すると、より深い分析が可能です。
- アクション: ダンサーの移動する動き、ジャンプする動きなど、どんな動きが多かったか?
- ダイナミック: 柔らかい動き、直線的な動きなど。ダイナミックを決める4つのカテゴリー(速さ、重さ、方向性、動きの質)を観察。
- 空間: ダンサーが空間をどのように動くか?(直線的か曲線的かなど)
- 他者との関係: 舞台装置はどんなことを表しているか。ダンサーが道具を使っているとすればどんなものがあるか。
2. 芸術面
ダンサーたちの表現や舞台美術で表現されていることで、感銘を与えるシーンはどこか。例えば、色彩や照明、衣装などがどのように感情や雰囲気を表現しているのか、また、ダンサーの表情や身体の動きがどのように観客に訴えかけてくるのか、といった点に注目してみましょう。
3. 構成面
振付の構成や全体の構成について、クライマックスや繰り返しなどの構成はどのように表されているか。ストーリー展開やテーマがどのように構成されているのか、そして、構成によってどのような効果を生み出しているのかを考察してみましょう。
4. 制作面
舞台セット、照明、衣装、音響などのそれぞれの制作部門はどのような効果があったか。公演プログラムの最後に制作部門が書かれているが、それらの舞台での効果はどうか。制作面がどのようにダンス作品全体の印象を左右しているのか、といった点に注目してみましょう。
5. 出演ダンサーの身体と感情表現
出演するダンサーたちのダンスのスキルや感情表現はどうだったか。ダンサーの身体能力や技術、そして、その技術を駆使して表現されている感情やストーリーに注目してみましょう。
ダンス批評と鑑賞を深める方法
ダンス批評と鑑賞を深めるためには、以下の方法を試してみましょう。
- プロのダンスカンパニーのダンス公演やダンス映画などでダンスを見て、上記の5つのことを鑑賞してみる
- その日のダンスクラスで学ぶテーマ(振付や構成)がビデオのダンス作品でどのように使われているか鑑賞して、キーワードを生徒とシェアする。
- ダンス鑑賞して、キーワードが出てきたら、生徒たちが理解できるように紙に書く
- ダンス鑑賞したときに、鑑賞した事について言葉で書いたり、描いたりしてみる
- 生徒が見たダンスについて、言葉にできないときに、適切な質問をして引き出す。
ダンス批評と鑑賞は、ただ見て楽しむだけでなく、作品を深く理解し、より豊かな鑑賞体験を得るための重要なプロセスです。これらのポイントを意識することで、ダンスをより深く理解し、鑑賞力を高めることができます。
ダンサーのためのダンス批評
ダンサーにとって、ダンス批評は自身の表現力を向上させるための貴重なツールとなります。客観的な視点を得ることで、自分の強みと弱みを認識し、より効果的な表現方法を探求することができます。
ダンス批評を受ける際には、以下の点に注意しましょう。
- 批評者は信頼できる人を選びましょう。
- 具体的なフィードバックを求めましょう。
- 批評を真摯に受け止め、改善につなげましょう。
ダンス批評は、自分を客観的に見つめ直し、成長を促すための重要なステップです。批評を恐れずに、積極的に受け入れ、自身の表現力を高めていきましょう。
まとめ
ダンスの批評と鑑賞は、作品に対する理解を深め、より豊かな鑑賞体験を得るための重要なプロセスです。観察、記述、分析、解釈、批評の5つの段階を踏むことで、作品全体をより深く理解することができます。また、振付、芸術面、構成面、制作面、出演ダンサーの身体と感情表現の5つのポイントを意識することで、より深みのある鑑賞体験を得られます。
ダンス批評は、ダンサー自身にとっても、自身の表現力を向上させるための貴重な機会となります。客観的な視点を得ることで、自分の強みと弱みを認識し、より効果的な表現方法を探求することができます。批評を恐れずに、積極的に受け入れ、自身の表現力を高めていきましょう。