目次
はじめに
電動シェアスクーター(キックボード)をご存知ですか?
日本だと聞き慣れないかもしれないですが、海外だとかなり注目されているモビリティサービスです。
今回はその電動シェアスクータービジネスがどんなものなのか。国内外の動向も踏まえながら調べてみました。
※電動キックボードと呼ばれることもありますが、ここでは電動スクーターと呼びます。
電動シェアスクーターサービス
そもそも電動スクーターがどういうモビリティかというと、昔からよくみたキックボードにモーターをつけて走るタイプの乗り物です。動力はモーターなので人の力なしで進みます。
当然バッテリーで動くので動かすには充電が必要になります。
用途として、自宅から駅、駅から会社までといったラストワンマイルを解決する移動手段として期待されています。
How to Lime: Electric Scooters
その電動スクーターをシェアリングサービスとして提供しているスタートアップが出てきました。
使い方を簡単に説明すると、
- アプリでQRコードを読み込めばすぐ借りられる
事前登録やヘルメットが必要な地域もある。 -
操作が簡単
手元のレバーでアクセルとブレーキを操作。 -
降りたい場所で乗り捨てできる
借りるまでのステップの少なさ、練習なしですぐ乗りこなせる操作性などもあいまって急速に拡大しました。
海外では米国、欧米を中心にかなり流行っています。
https://twitter.com/yuakasaka/status/1121618255813066754
国外/国内のスタートアップ状況
海外だとLime(ライム)、Bird(バード)あたりが2強で、国内だとmobby(モビー)、Luup(ループ)あたりが積極的に実証実験に取り組まれている印象です。
とはいえ、国内はまだまだシェア事業としてサービスを提供しているスタートアップはありません。(2019/5現在)
なぜなら、法規制への対応などの課題がまだまだ残っているからです。
なので、各社とも実証実験という形で、自治体などと連携を図りながらプロジェクトを進めている段階です。
AnyPayが福岡市実証実験フルサポート事業に採択。福岡市にてシェアモビリティの実証実験を目指す
規制の壁どう乗り越える?「シェア型電動キックボード」国内実証へ一歩 —— 国交省「具体化はこれから」
法規制の壁
道路交通法的な位置付け
道交法的には電動スクーターは 原付車両 として扱われるため、歩道を走らせることはできません 。
いわゆる「電動キックボード」及び「電動スクーター」について(警察庁)
キックボード(車輪付きの板)に取り付けられた電動式のモーター(原動機(定格出力0.60キロワット以下))により走行するいわゆる「電動キックボード」については、道路運送車両法上の原動機付自転車に該当すると解されます。
たまに都内でも歩道で走らせている人を見かけますが、法的にはアウトなのでやめましょう。(違反すると1年以下の懲役又は50万円以下の罰金)
また、基本原付として扱われるため自動車免許やヘルメットの着用も義務化されています。
法律的にクリアしなければならない課題
手軽に乗れることが売りの電動スクーターですが、国内で乗るには以下の点に注意しなければなりません。
- 原付扱いのため、歩道は走れない
- 運転免許証が必要
- 前照灯、番号灯、方向指示器等の整備が必要
- バックミラー
- 方向指示器(ウィンカー)
- 前照灯(ヘッドライト)
- 番号灯(テールランプ)
- ナンバープレート
- 自動車保険に入っている必要がある
- 軽自動車税(市町村税)を納付 する義務がある
- ヘルメット着装など交通法令を遵守する必要がある
自分が海外(ヨーロッパ)で乗った時は、アプリをダウンロードして登録したらすぐ乗ることができました。(ナンバーやウィンカーなども付いてませんでした)
日本の法律にどうフィットしていくかが課題になってきます。
市場規模
2強であるLimeとBirdは、創業からわずか14か月でそれぞれ11億ドル(1,210億円)と20億ドル(2,200億円)の評価額で、合計で10億ドル(1,100億円)近くを調達しました。
利用率の伸びも激しく、Limeは2018年9月時点で月に1,100万回利用されるまでに成長しています。
参考(Lime and Bird worth $10B+ each or 5x to 10x more than their last valuations)
海外ではすでにAlphabet(Googleの親会社)やUberといったビッグカンパニーをはじめとして、多くの投資家からの資金が流入していますが、国内の市場だとどれくらいになるのか以下のサイトを参考に算出してみます。
https://www.futureengine.org/articles/scooters-are-worth-10b
前提として、海外におけるシェア事業は自転車とスクーター合わせての事業規模とされているため、ここでは電動スクーターだけでなくシェアバイクというくくりで算出します。
まず、中国のシェアバイクの企業Mobikeが20億ドル、Ofoが27億ドルで買収されていることから中国における事業価値は20億ドル〜27億ドル(2,200~2,970億円)と評価されていると言えます。
そこで中国における平均利用コストは0.15ドル(17円)なのに対し、米国Birdは2.92ドル(321円)であるため、単価に関して約19.5倍の売上が期待できることになります。
また、日本の人口は中国の9%(2018年度)であり、単価もBirdと同じくらいあると仮定すると、19.5倍の売上単価 × 9%の人口比 = 1.76倍の収益機会があることになります。
そのため先の中国シェアバイク企業の評価価値から比較すると、日本ではおよそ 35.2~47.5億ドル(3,872~5,225億円) の事業価値があると推定することができます。
もちろん、実際の平均単価や利用率などによって全然変わってきますし、シェアバイクをどこまで含めるのかという問題もありますが、社会インフラとして普及した際のインパクトはあると思います。
収益モデルについて(ユニットエコノミクス)
この事業はどれほど儲かるのか?収益モデルを考えてみます。
1台当たりの売り上げは?
まずは売上から。
Birdはサンタモニカにおいて1台あたり1日平均5〜6回利用されていると発表しています。また、電動スクーターの平均走行距離は2.6kmだそうです。
Birdの場合、一回の走行につき基本料金として110円、1分ごとに16円を支払います。
平均時速12kmで走ったとすると、平均走行時間は2.6km / 12(km/h) = 13分となるので、基本料金110円 + 平均13分 × 16円 = 318円が1回の利用の平均売上になります。
つまり 1日にすると1台あたり318円 × 5.5回 = 1,749円、1ヶ月だと約52,500稼げる ということです。
もちろん、都市によって走行距離も時間も変わってきますが、1例としてこのように推測することが出来ます。
Simple math shows how scooters could make big money
どんなコストがかかる?
次はコストをみていきましょう。
インターネットサービスと違って、ハードウェアが必要になるので物理的な調達が肝になってきます。
- スクーターの調達
まずは、当然スクーターが必要です。Birdなどは中国のシャオミ製を使用しているみたいですね。
Amazonだと 大体50,000円くらい で手に入りますが、大量購入でディスカウントの交渉しているはずなので実際はもう少し低いコストで仕入れているだろうと予想します。(参考:Rebranded Chinese scooters are taking over San Francisco)
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バッテリーの充電代
バッテリーで動くので充電代もバカになりません。
Limeなどの事業者は スクーターの充電と再配置をユーザに依頼する ことでスケールする仕組みを取り入れています。ユーザはスクーターを回収し、自宅で充電して返すことで収益を得ることができます。お小遣い稼ぎしたいユーザを活用して運用コストを下げるという中々うまい仕組みだと思います。
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州や自治体の許可料
展開する都市によっては 許可料 のようなものが必要になるかもしれません。オレゴン州ポートランドでは、4ヶ月間で最大200台のスクーターを配置するための許可料として5,250ドル(578,000円)に加えて、乗車あたり0.25ドル(27.5円)の追加料金を要求しているそうです。
その場合、1台あたりの追加コストが26.25ドル(2,888円)となり、1日あたり5〜6回の旅行を想定した場合、1日の乗車料金に1.25ドル(138円)から1.50ドル(165円)が費用としてかかってきます。
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その他のコスト
永遠に走り続けるスクーターはありません。
必ず寿命はくるので、それがどれくらいのペースで償却されるのかが重要になって来ます。ちなみにライムスクーターの平均「寿命」は約4ヶ月のようです。
また、関連するメンテナンス費用、リバランス(再配置)のような運用コストも無視できません。
1台あたりの売上でどれだけ早くコストを回収できるかを計算しながら展開することが求められます。
Limeによると、初期購入価格、1日あたりの減価償却費、および運用などにかかる コストの回収期間は2か月以内 だそうです。
事業リスク
ビジネスとして成功させるために超えなければならない事業リスクについて考えてみます。
- 国や自治体による規制
まずは規制に対してどう適合していくかです。
特に日本は一度事故やトラブルが起こってしまうと即規制にしてしまうケースが多いので、国や自治体などをうまく協調しながら展開していくことが求められます。また、海外と比べて都市部では道幅が狭く、乗り捨ても固く禁止されているので、このあたりをどうフィットさせていくのか十分に議論していくべき課題です。
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事故、盗難、破壊
自動車、自転車の事故ですら後を絶たないのに、新しい移動手段でましては公道を走るのであれば、どうすれば事故を最小限に抑えることができるのかを考えなければなりません。Limeは適切な交通マナーへの啓蒙活動をブランディングの一環として取り組んでいます。
How to Park a Lime-S Electric Scooter盗難や破壊に関しては海外では大きな問題になっていますが、日本の治安の良さを考えるとそこまで心配する必要はないかなと思います。
Limeなどは、ロックが掛かった状態で勝手に持ち運ぼうとすると警報がなるような仕組みになっています。ハードウェアの機能である程度解決できるでしょう。 -
地元民からの反感
避けたいのは地元住民からの反感、反発を受けることです。
海外の一部地域で、LimeやBirdの電動スクーターに反感を持った人々がその破壊行為をSNSで広めるという活動が社会問題となっています。
(参考:Bird Graveyard/Instagram)Who Killed the Electric Scooter? The Destructive Trend that is Pretending to be a Movement
社会インフラという側面がある事業のため、地域住民を無視することは出来ません。
社会と上手く対話しながら拡大していくことが求められるでしょう。
最後に
近年MaaS(Mobility as a Service)という言葉をよく聞きます。MaaSというのは自動車や電車、バスなど(Mobility)をサービスとしてシームレスに提供しようというコンセプトです。
みんな当たり前のように、電車、バス、自動車を利用していますが、考えてみると移動手段に関してはここ50年くらいあまり進歩していないような気がします。
UberやLyftをはじめとする配車サービスの台頭や自動運転車の進歩など、ここ10数年はモビリティが大きく変わるタイミングだと言われています。
電動シェアスクータービジネスは新しい移動手段として社会インフラを変える、とてもインパクトが大きい事業です。
乗り越えるべき課題も多いとは思いますが、日本でもぜひ普及してほしいので期待しています。
それでは。