看護倫理の基礎知識:患者中心のケアの実践に向けて

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看護師として、私たちは患者さんの命と健康を守るという重要な役割を担っています。その中で、日々直面する様々な場面において、倫理的な判断を迫られることは少なくありません。

「患者さんの意思を尊重すべきか?」「家族の意向と患者さんの意向が食い違う場合は?」「医療資源の制限の中で、公平にケアを提供できるのか?」など、倫理的なジレンマに遭遇することは、決して珍しいことではありません。

しかし、看護倫理を理解することで、これらの課題に対し、自信を持って倫理的に正しい判断を下すことが可能になります。

1. 看護倫理とは?

看護倫理とは、患者さんに対して質の高い看護を提供するために、看護師が守るべき原則や行動指針を定めたものです。

患者さんの生命と尊厳を尊重し、最善のケアを提供するために、看護倫理は私たちにとって重要な指針となります。

1-1. 看護倫理の3つの要素

看護倫理は、大きく以下の3つの要素から構成されています。

  • 倫理原則: 看護を行う上で、倫理的な判断をするための基本的なルールです。
  • 倫理綱領: 日本看護協会が策定した、看護職における行動指針です。
  • 臨床倫理: 医療現場において、倫理的な問題が発生した場合に、解決策を見つけるための考え方です。

2. 倫理原則:看護の根幹を支える4つの原則

倫理原則は、看護を行う上で基本となる考え方であり、患者さんに対する責任を果たすために、常に意識しておくべきものです。

2-1. 自立尊重原則

患者さんが主体的に医療に関われるよう、十分な情報提供を行い、納得のいくまで説明することで、患者さんの意思決定を尊重します。

具体的な例

  • 治療法や検査について、患者さんが理解できる言葉で説明する。
  • 患者さんの質問に丁寧に答える。
  • 患者さんの不安や疑問に寄り添い、解決策を探る。

2-2. 善行原則

患者さんの利益を最優先に考え、その利益に繋がる行動をとることを原則とします。

具体的な例

  • 患者さんの希望や状況に合わせて、適切なケアを提供する。
  • 患者さんの苦痛を和らげるための処置を行う。
  • 患者さんの生活の質(QOL)の向上に貢献する。

2-3. 無危害原則

患者さんに危害が及ばないように、細心の注意を払い、安全な看護を提供することを原則とします。

具体的な例

  • 患者さんの転倒防止対策を行う。
  • 薬剤の誤投与を防ぐために、ダブルチェックを行う。
  • 感染予防対策を徹底する。

2-4. 正義原則

医療資源を公平に分配し、すべての患者さんに平等な医療を提供することを原則とします。

具体的な例

  • 緊急度の高い患者さんを優先的に治療する。
  • 医療資源の不足が生じた場合、倫理的な観点から公平な分配を行う。
  • 医療格差の解消に貢献する。

3. 倫理綱領:看護師としての行動指針

日本看護協会が策定した「看護職の倫理綱領」は、看護師が職業倫理に基づいた行動をとるための指針となります。

3-1. 倫理綱領の16項目

倫理綱領は、以下の16項目から構成されており、それぞれ具体的な事例を挙げて説明します。

1. 人間としての尊厳および権利を尊重する

  • 例:患者さんのプライバシーに配慮し、個人情報保護を徹底する。

2. 平等に看護を提供する

  • 例:年齢、性別、国籍、宗教、経済状況に関わらず、すべての患者さんを平等に扱う。

3. 看護の対象者と信頼関係を築いた上でケアを行う

  • 例:患者さんとコミュニケーションを図り、信頼関係を築く。

4. 対象者の「知る権利」「選択・決定の権利」を尊重し、適切にサポートする

  • 例:治療法の選択肢やリスクについて、患者さんにわかりやすく説明する。

5. 対象者の秘密・個人情報の保護に努める

  • 例:患者さんの個人情報を適切に管理し、外部への漏洩を防ぐ。

6. 対象者に不利益や危害が生じた場合、人々を保護して安全を確保する

  • 例:患者さんの安全確保のために、リスクを早期に発見し、対応する。

7. 自分の責任と能力を把握し、実施した看護に責任をもつ

  • 例:自分の能力範囲内で看護を行い、責任を持って行動する。

8. 常に継続して学習を行い、自分自身の能力の開発・維持・向上に努める

  • 例:最新の知識や技術を習得し、看護の質を高める努力をする。

9. 多職種でサポートしあい、よりよい保健・医療・福祉を実現する

  • 例:医師、薬剤師、介護士など、他の医療従事者と連携して、患者さんのケアを行う。

10. 看護職として望ましい行動基準を設定し、より質の高い看護を行う

  • 例:チームで倫理的な問題点を共有し、より良い看護を目指して改善を行う。

11. 研究・実践から専門的知識・技術の創造と開発に努め、看護学の発展に貢献する

  • 例:研究活動や論文発表を通して、看護学の発展に貢献する。

12. より質の高い看護を行うため、看護職自身のウェルビーイングの向上を心がける

  • 例:心身ともに健康な状態を保ち、質の高い看護を提供できるよう努める。

13. 常に品位を保持し、看護職に対する社会の人々の信頼を高めるよう努める

  • 例:患者さんや家族に対して、丁寧で思いやりのある対応をする。

14. 人々の生命と健康に関する様々な問題について、社会正義の考え方をもって社会と責任を共有する

  • 例:社会問題に対して、看護師としての立場から積極的に発言し、解決に貢献する。

15. 看護職として、よりよい社会づくりに貢献する

  • 例:地域活動やボランティア活動を通して、社会に貢献する。

16. 様々な災害支援の担い手と共に働き、災害による影響を受けたすべての人々の生命、健康、生活の保護に貢献する

  • 例:災害発生時の対応について、知識やスキルを習得し、備える。

4. 臨床倫理:現場で直面する倫理的課題の解決に向けて

臨床倫理は、医療現場において発生する倫理的な問題に対処するための考え方です。

患者さん、家族、医療従事者など、様々な立場の人々が関わる医療現場では、倫理的なジレンマが生じることがあります。

4-1. 臨床倫理の4分割法

臨床倫理の4分割法は、治療方針決定にあたり、倫理的な観点から様々な情報を整理するためのツールです。

  1. 医学的適応: 患者さんの病状、治療法の有効性、リスクなどを考慮します。
  2. 患者さんの意向・動向: 患者さんの意思、価値観、治療への意欲などを考慮します。
  3. QOL(幸福追求): 治療による生活の質の変化、患者さんの幸福度などを考慮します。
  4. 周囲の状況: 家族の意向、社会的な状況、医療資源の制限などを考慮します。

4-2. 倫理的判断のための4つのステップ

  1. 問題の特定: 倫理的な問題点を明確に認識します。
  2. 情報の収集: 患者さんの状況、家族の意向、医療的な情報などを収集します。
  3. 倫理的な分析: 倫理原則や倫理綱領に基づいて、問題点について分析します。
  4. 行動計画: 倫理的な判断に基づいた行動計画を立て、実行します。

5. 看護倫理レポート作成のコツ

看護倫理レポート作成では、具体的な事例を挙げながら、自身の考えを論理的に展開することが重要です。

5-1. レポート作成のポイント

  1. テーマの選定: 看護倫理のどの側面について考察するか、明確なテーマを設定します。
  2. 事例の提示: 倫理的な問題点を浮き彫りにする具体的な事例を挙げます。
  3. 倫理的な分析: 倫理原則や倫理綱領に基づいて、事例を分析します。
  4. 自身の意見: 分析結果に基づいて、自身の意見や考えを明確に記述します。
  5. 結論: レポートで得られた結論を簡潔にまとめます。

6. まとめ

看護倫理は、患者さんに対して質の高い看護を提供するための重要な指針です。

倫理原則、倫理綱領、臨床倫理などを理解し、日々実践することで、患者さんの尊厳を尊重し、倫理的に正しい判断と行動をできる看護師を目指しましょう。

参考資料

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