看護師にとって、正確で分かりやすい看護記録を作成することは、患者さんの安全確保、質の高いケア提供、チーム医療の円滑化に欠かせません。特に電子カルテの導入により、記録の形式や内容にも変化が生じ、新たなスキルが求められています。
本記事では、看護記録の基本的な書き方から、電子カルテ時代におけるSOAPの活用、そして記録作成における注意点までを詳しく解説します。
目次
看護記録の基礎:正確に伝えるための基本原則
看護記録は、患者さんの状態や経過、行った看護ケアなどを記録することで、情報の共有を図り、質の高い看護を提供するための重要なツールです。正確な記録作成には、以下の基本原則を理解し、常に意識することが大切です。
1. 事実のみを正確に記録する
看護記録は、主観的な意見や推測ではなく、客観的な事実のみを記録します。例えば、患者の訴えをそのまま記述するのではなく、具体的な行動や言葉、数値などを用いて客観的に表現します。
例:
- 主観的な記述: 「患者さんは痛みを訴えている」
- 客観的な記述: 「患者さんは、左肩を押さえながら『痛くて眠れない』と訴えている」
2. わかりやすい表現で記述する
看護記録は、医療従事者だけでなく、患者さんや家族にも閲覧される可能性があります。そのため、専門用語を避けて、誰でも理解できる平易な言葉で記述することが重要です。
例:
- 専門用語: 「血圧は140/90mmHgであった」
- 平易な表現: 「血圧は、上が140、下が90でした」
3. 患者さんのプライバシーに配慮する
患者さんのプライバシーは厳守し、人権や人格を侵害するような表現は避けましょう。特に、患者さんの容姿、家族構成、経済状況、宗教などに関する記述には注意が必要です。
例:
- 配慮に欠ける表現: 「肥満の患者さん」
- 配慮した表現: 「体格が大きい患者さん」
4. 責任の所在を明確にする
誰がいつどのような看護ケアを行ったのか、責任の所在が明確になるように記述します。担当者名は、役職名ではなく、氏名で記入するのが一般的です。
例:
- 担当者不明確: 「担当医より指示あり」
- 担当者明確: 「田中医師より指示あり」
5. カンファレンスや口頭指示の内容も記録する
カンファレンスや医師からの口頭指示の内容は、情報共有と責任の所在を明確にするために、必ず記録します。
例:
- 日付: 2023年12月10日
- 時間: 10:00
- 内容: 田中医師より、患者の疼痛緩和のため、〇〇薬を1錠、1日3回服用するように指示がありました。
- 担当者: 佐藤看護師
電子カルテ時代の看護記録:SOAPを活用しよう
電子カルテの導入により、看護記録の入力方法や内容が大きく変化しました。従来の紙カルテでは、記録形式に自由度がありましたが、電子カルテではシステムに則した入力が必要となります。
電子カルテ時代の看護記録作成では、SOAPという記録方法が広く活用されています。SOAPは、S(主観的情報)、O(客観的情報)、A(評価)、P(計画)の頭文字をとったもので、構造的に情報を整理することで、記録の精度向上と情報共有の効率化を図ります。
1. S(主観的情報):患者の訴えや発言を記録する
患者の主観的な情報とは、患者自身が感じていることや訴えていることです。具体的には、痛み、息苦しさ、不安、気分など、患者さんの言葉や表情、行動から得られる情報となります。
例:
- 「患者さんは、左肩を押さえながら『痛くて眠れない』と訴えている」
- 「患者さんは、不安そうに『手術が怖い』と発言している」
2. O(客観的情報):観察や検査結果などを記録する
客観的情報は、観察や検査結果など、数値や事実として確認できる情報です。
例:
- 「血圧:140/90mmHg」
- 「体温:37.5℃」
- 「呼吸数:20回/分」
- 「歩行時のふらつきがみられる」
3. A(評価):SとOから得られた情報を分析し、問題点を特定する
評価では、SとOから得られた情報を分析し、患者の状態や問題点を客観的に評価します。
例:
- 「患者の疼痛は、左肩の痛みで、夜間特に強い。日常生活動作に支障をきたしていると考えられる」
- 「患者の不安は、手術に対する恐怖から来ていると考えられる」
4. P(計画):評価に基づいた看護目標と具体的な介入策を記述する
計画では、評価に基づいた看護目標を設定し、それを達成するための具体的な介入策を記述します。
例:
- 目標: 「患者の疼痛を軽減し、睡眠の質を向上させる」
- 介入策:
- 「痛み止め薬の投与」
- 「患者の体位変換」
- 「温罨法の実施」
- 「疼痛に関する説明と情報提供」
看護記録作成における注意点
電子カルテを活用した看護記録作成では、以下の点に注意が必要です。
1. 診察後すぐに記録する
電子カルテでは、記録した日時が自動的に記録されます。そのため、診察後すぐに記録することで、記録と診察時間の整合性を保つことができます。
2. 修正は慎重に行う
電子カルテでは、修正履歴が記録されます。そのため、修正は最小限に抑え、誤った入力や修正は避け、慎重に行う必要があります。
3. 削除は原則行わない
電子カルテの記録は、原則として削除することはできません。削除が必要な場合は、削除前のデータを残すなど、適切な対応が必要です。
まとめ:正確で分かりやすい看護記録は、患者さんのために
看護記録は、患者さんの安全確保、質の高いケア提供、チーム医療の円滑化に不可欠です。電子カルテ時代においても、正確で分かりやすい記録を作成し、患者さんのために役立てましょう。
本記事が、看護記録作成のスキル向上に役立てば幸いです。