看護師のための感染症対策: スタンダードプリコーション徹底解説

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看護師にとって、感染症対策は患者さんの安全を守る上で最も重要な課題の一つです。様々な感染症から患者さんと自分自身を守るためには、スタンダードプリコーション(標準予防策)を正しく理解し、実践することが不可欠です。

この記事では、スタンダードプリコーションの重要性、具体的な内容、そして実践するためのポイントについて解説します。

目次

  • スタンダードプリコーション(標準予防策)とは?
  • スタンダードプリコーションの10項目
      1. 手指衛生
      1. 個人防護具(PPE)
      1. 呼吸器衛生/咳エチケット
      1. 患者の配置
      1. 患者ケアに使用した器具
      1. 環境の維持・管理
      1. リネン類の取り扱い
      1. 安全な注射手技
      1. 腰椎穿刺時の感染予防策
      1. 労働者の安全
  • おわりに

スタンダードプリコーション(標準予防策)とは?

スタンダードプリコーションとは、すべての患者に対して標準的に用いる、最も重要で基本的な感染対策です。目的は、患者さんと医療従事者の感染リスクを減少させることです。

スタンダードプリコーションでは、「湿性生体物質には感染性がある」 とみなして対応することで、湿性生体物質を介した感染から、患者さんと医療従事者を保護します。

湿性生体物質とは

  • 血液
  • 体液
  • 汗以外の分泌物
  • 排泄物
  • 創傷のある皮膚
  • 粘膜

(日本看護協会「職場での感染予防」を参考に看護roo!編集部作成)

「感染経路別予防策」との違い

スタンダードプリコーションを実施しても防ぎきれない病原体を持つ患者や、その感染の疑いがある患者を対象として、「感染経路別予防策」 があります。

具体的には、「空気予防策」「飛沫予防策」「接触予防策」の3つです。

新型コロナウイルス感染症の感染対策には、スタンダードプリコーションに加え、「感染経路別予防策」も必要です。

※「スタンダードプリコーション」と「感染経路別予防策」は、アメリカ疾病管理予防センター(CDC;Centers for Disease Control and Prevention)が発表した『病院における隔離予防策のためのガイドライン』(1996)の中で初めて提唱されました。

スタンダードプリコーションの10項目

スタンダードプリコーションの内容として、下記10点を覚えておきましょう。

  1. 手指衛生
  2. 個人防護具(PPE)
  3. 呼吸器衛生/咳エチケット
  4. 患者の配置
  5. 患者ケアに使用した器具
  6. 環境の維持・管理
  7. リネン類の取り扱い
  8. 安全な注射手技
  9. 腰椎穿刺時の感染予防策
  10. 労働者の安全

※文献1)を参考に編集部作成。

1. 手指衛生

手指衛生は、スタンダードプリコーションの基本であり、患者および医療従事者を感染から守るための最も重要な方法です2)。

手指衛生の種類

スタンダードプリコーションでは、手指衛生は「手洗い」「手指消毒」の2つに大きく分けられています。

手指衛生のタイミング

スタンダードプリコーションでは、手指衛生は以下のタイミングで行うのが望ましいとされています。

    1. 患者に直接接触する前
    1. 湿性生体物質に触れた後
    1. 患者に直接触れた後
    • 例:脈を取る、血圧を測る、患者を持ち上げるなど
    1. 患者ケアの間に、汚染した部分から清潔な部分に手が移動するとき
    1. 患者の近くにある医療器具などに触れた後
    1. 手袋を外した後

業務を安全かつスムーズに遂行する上で、いつ手指衛生を行うのかのルールは、施設によって異なる場合もあります。タイミングに迷ったときは、管理者に確認しましょう。

※広く知れ渡っているWHOの5つのタイミング3)では、清潔/無菌操作の前にも手指衛生を行うよう推奨されています。

2. 個人防護具(PPE)

個人防護具(PPE;personal protective equipment) とは、湿性生体物質から身を守るために、医療従事者が着用するものの総称です。

おもな個人防護具は、手袋、マスク、ゴーグル・フェイスシールド、エプロン・ガウンなどです。湿性生体物質が付着する可能性がある部位に応じて、適切な個人防護具を選びます(※1)。

(※1)「感染経路別予防策」の一環で、新型コロナウイルス感染症の感染予防には、個人防護具の一種であるヘアキャップも、必須ではないものの場合に応じて使用するよう、日本環境感染学会が推奨しています4)。

表1 スタンダードプリコーションにおける個人防護具の選び方

湿性生体物質が付着する可能性がある部位 使用する個人防護具
手袋
鼻・口 マスク
ゴーグル・フェイスシールド
体幹 エプロン
体幹+腕 ガウン

※文献1)を参考に編集部作成。

※どんな場面でどの個人防護具を使用するかは、物品等の状況などから、施設ごとにルールが異なる場合もあります。施設の方針を確認しましょう。

個人防護具のつけ方、外し方

個人防護具のつけ方、外し方について、まずは順番を説明します。

個人防護具のつけ方・外し方のPoint!1,5)

①外すときは、個人防護具の表面に素手で触れないよう注意する
– 使用後の個人防護具の表面は、感染性のあるものが付着している(汚染されている)と考えます。
– 個人防護具を外すときは、汚染されている表面を素手で触ることで、汚染を広げてしまわないよう、注意が必要です。
– 手袋、ガウンはもちろん、マスクやゴーグルを外すときも、表面ではないマスクのゴムやゴーグルの耳にかける部分を持って外します。

②手袋は最初に外す
– 手袋は、ケアなどで感染性のあるものに直接触れることも多いため、他の部位よりも高度に汚染されています。
– 汚染を広げてしまうことのないよう、最初に手袋を外します。

③手袋を外した後には手指衛生を行う
– 手袋の表面には、製造過程でできたピンホール(目に見えない小さな穴)がある可能性があります。
– また、ケアの最中に手袋が破損したり、手袋を外す過程で、手袋の表面に素手で触れてしまう可能性もあります。
– そのため、手袋を外した後の手指は汚染されている可能性が高く、手指衛生が必要だと考えられています。

個人防護具のつけ方・外し方 → プラスティックエプロンのつけ方と外し方|ガウンテクニック【2】|看護roo!ガウンのつけ方と外し方|ガウンテクニック【3】|看護roo!

手袋を使うときの注意点1,5)

手袋は、看護師にとって身近な個人防護具ですが、忘れがちなポイントがあるので、注意点を6つ紹介します。

  1. 患者や患者周囲の環境に触れて汚染された手袋は、患者ゾーンを出る前に外す
  2. 患者ごとに手袋を交換する
  3. 同じ患者でも湿性生体物質に曝露した手袋は、他の部位に触れる前に交換する
  4. パソコンなど共有の物品に触れるときは手袋を外す
  5. 手袋を外した後は手指衛生を行う
  6. 手袋は再利用しない

3. 呼吸器衛生/咳エチケット

「呼吸器衛生/咳エチケット」は、咳やくしゃみを介して広がる病原体から、周囲の人を守るための対策です。以下の5点1)を行います。

  1. 医療施設のスタッフ、患者、面会者を教育する
  2. ①のために、適切な言語でポスターを作り、掲示する
  3. 感染源制御対策を行う
    • 例:咳のあるときにはティッシュで口と鼻を覆う/使ったティッシュはすぐに捨てる/咳をしている人にはサージカルマスクをつけてもらうなど
  4. 呼吸器分泌物に触れた後には手指衛生を行う
  5. 可能であれば、待合室では、症状のある人から距離(約1m以上)をとる

4. 患者の配置

以下の状態の患者は、個室入院が推奨されています。

  1. 何らかの感染症にかかっていて、感染性物質を広げてしまう状態の患者
    • 例:排膿創がある/便失禁がある/マスクをつけることができないなど
  2. 感染症にかかりやすい状態の患者
    • 例:免疫抑制状態/開放創がある/留置カテーテルを装着している/ADLが低く医療従事者が介助する機会が多いなど

また、同じ感染症に感染している患者を一区画に集めることを、コホーティングと呼びます。

個室入院ができなくても、コホーティングによって他の患者との接触を予防することで、感染が広がるリスクを低下させることができます。

5. 患者ケアに使用した器具

患者に使用した後の湿性生体物質が付着した器具は、皮膚や衣服、周囲の環境を汚染しないように取り扱います。

再利用する器具は、安全に再利用できるよう、洗浄・消毒・滅菌から適切な方法を選んで再生処理する必要があります。

6. 環境の維持・管理

患者の周辺の環境表面は、汚染や埃がないよう、日常的に清掃する必要があります。

特に、ベッド柵などよく手に触れる環境表面は、それ以外の環境表面よりも、頻繁に清掃します。

7. リネン類の取り扱い

使用後のリネン類は、空気などの汚染を防ぐために、ほこりが散らばらないようできるだけ静かに取り扱います。

8. 安全な注射手技

安全な注射手技のために、以下の5つが禁止事項とされています。

  1. 注射器、注射針、輸液セット、輸液バッグ(ボトル)を、複数の患者に使用すること
    • (注射器の針やカニューレを交換した場合でも同様)
  2. 使用済みの注射器を、次の患者に使用する可能性のある薬剤や溶液に接触させること
  3. 単回量バイアルやアンプルから、複数の患者に薬剤を投与すること
  4. 単回量バイアルやアンプルの、残った内容物をひとつにまとめて、別の患者に使用すること
  5. 注射用溶液のバッグやボトルを、同時に複数の患者に使用すること

また、可能であれば、非経口薬剤には、常に単回量バイアルを用いることが推奨されています。

やむを得ず複数回量バイアルを使用するときは、そのバイアルに使用する針や注射器は、すべて滅菌する必要があります。

9. 腰椎穿刺時の感染予防策

脊柱管や硬膜下腔に、カテーテルを留置したり薬剤を注入するときには、サージカルマスクを着用します。

該当する処置の例

  • ミエログラム
  • 腰椎穿刺
  • 脊髄麻酔
  • 硬膜外麻酔

10. 労働者の安全

CDCによるガイドライン1)では、「血液感染性病原体への曝露から医療従事者を保護するための連邦および州の要件を遵守する」とされています。

医療者は、B型肝炎ウイルス(HBV)やヒト免疫不全ウイルス(HIV)などに曝露するリスクがあり、その防止は重要です。

日本では2022年5月現在、法律化には至っていませんが、血液等を介した職業感染予防は重要な位置づけとして、職業感染制御研究会などが活動しています。

おわりに

すべての患者に対して行う標準的な感染予防策であるスタンダードプリコーション。

患者さんや医療従事者自身の安全を守るために、参考にしてください。

看護roo!編集部 光松瞳

監修
新改法子
感染管理認定看護師、感染症看護専門看護師。日本環境感染学会所属。神戸市立医療センター中央市民病院に30年勤務。2019年12月、日本環境感染学会トラベルアウォード賞受賞。2022年5月から看護教育に携わる傍ら、感染症看護の研究や執筆活動などを行う。

※編集部注※ 当記事は、2013年7月22日に公開した『スタンダードプリコーション | いまさら聞けない!ナースの常識【17】』という記事を、2022年5月31日に修正・加筆したものです。

引用文献

1)Guideline for Isolation Precautions: Preventing Transmission of Infectious Agents in Healthcare Settings,CDC;Centers for Disease Control and Prevention,2007(2022-0530アクセス)
2)井川順子.系統看護学講座 専門分野Ⅰ 基礎看護学[2]基礎看護技術Ⅰ.医学書院,2021,p.70
3)WHO Guidelines on Hand Hygiene in Health Care: a Summary.WHO;World Health Organization,2009,p.27(2022-0530アクセス)
4)医療機関における新型コロナウイルス感染症への対応ガイド第4版.一般社団法人日本環境感染学会,2021,p.5(2022-0530アクセス)
5)坂本史衣.基礎から学ぶ医療関連感染対策ー標準予防策からサーベイランスまで 改訂第3版.南江堂,2019,p.22
6)栗原英見,佐藤智明他.02.標準予防策(Standard precautions).日本環境感染学会教育ツールVer.3.2.日本環境感染学会,2022,p.13-15(2022-0530アクセス)

参考文献

  • Guideline for Isolation Precautions: Preventing Transmission of Infectious Agents in Healthcare Settings,CDC;Centers for Disease Control and Prevention,2007(2022-0530アクセス)
  • WHO Guidelines on Hand Hygiene in Health Care: a Summary.WHO;World Health Organization,2009(2022-0530アクセス)
  • 坂本史衣.基礎から学ぶ医療関連感染対策 標準予防策からサーベイランスまで 改訂第3版.南江堂,2019
  • 井川順子.系統看護学講座 専門分野Ⅰ 基礎看護学[2]基礎看護技術Ⅰ.医学書院,2021
  • 医療機関における新型コロナウイルス感染症への対応ガイド第4版.一般社団法人日本環境感染学会,2021(2022-0530アクセス)
  • 栗原英見,佐藤智明他.02.標準予防策(Standard precautions).日本環境感染学会教育ツールVer.3.2.日本環境感染学会,2022(2022-0530アクセス)

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